極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
ぎゅっと目を閉じたまま固くなっていると、不意に頭の上に掌を感じた。
そしてくしゃっと軽くかき混ぜると、そのまますんなりと手が離れ革靴の足音が離れていく。
そこでやっと目を開けると、通路を外に通じる階段の方へ戻っていく後ろ姿があった。
「あ……朝比奈さん」
「帰るよ。今日は何もしないと約束したし」
名前を呼ぶと、立ち止まって半身だけ振り返ってそう言った。
それから、「あ」と何かを思い出したように、言葉が続く。
「ひとつ聞きたいんだけど」
「はい?」
「三年前、僕を見た時、他に誰かといた?」
変なことを聞くな、と思った。
だけど、確かに私はひとりじゃなかった。
「え、と……伊崎、と一緒でした。同期の飲み会がある日で……」
「二回とも?」
「二回目もです。確か……」
そこまで考えて、思い出したことがひとつあった。
飲み会の前に朝比奈さんと倉野さんを見つけて、ショックを受けた私はその日飲み会を途中で抜けて帰った。
だけどなぜかその後、伊崎も戻らなかったらしくてふたりで抜けただのと、変に関係を疑われて冷やかされたのだ。
もしかしてそれを疑われているのかと、私は慌てた。
「あれはほんとに、ただの飲み会で一緒に向かう途中だっただけです!」
「わかってるよ」
そういうことじゃないよ、と彼が微笑んだ。
何が言いたいのかわからなくて、私は首を傾げる。
その間に。
「じゃあね」
と、彼は今度こそ階段を降りていった。