極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
「びっくりした、何?」
「いや。急に呼ばれたから大丈夫だったか心配だっただけ」
ぶす、と眉を寄せている、この頃の彼は最近いつもこの仏頂面だ。
「別に、心配するようなことはないよ」
歩きながら軽くあしらうと、彼も真横について歩き出す。
「ならいいけど……なあ、飯いかね?」
その一言で、そういえばもうじき昼かと気が付いた。
「いいけど、社食だよ。私今日社内でないし」
「昼じゃなくて晩飯」
「あ、だめ。今日はカナちゃんとご飯行くから」
「は? 昨日歓迎会の後行ったんじゃねーの」
「そうだけど、ちょっと色々あったの!」
本当は、カナちゃんと行く予定だったのがなぜか朝比奈さんだった、という結末だが、それを言えばまた息巻いてしまいそうなので、敢えて黙る。
沈黙したかわりに、じっと見上げた。
「な、なんだよ」
ちょっと照れたような顔を見ていると……やっぱり、何かあるようには思えない。
三年前のことを聞こうと思ったが、何をどう聞けばいいかピンと来なくて、今はやめた。
「別に何にも。また今度ね」
そう返事して、オフィスに戻る前にトイレに向かう。
さすがにそこまでは付いて来れず、伊崎は大人しくオフィスに戻ったようだった。
昨日、朝比奈さんが何か意味深な言葉を残したから、あの後私は三年前のことを懸命に思い出そうとした。
特に、一緒に居た伊崎のことを。
だけどやっぱり、あの時はたまたまふたりで、たまたま居合わせた……何も、特別気になることは見当たらなかったのである。