いじっぱりなオトコマエ女子と腹黒なイケメン御曹司の攻防
「悪い。でも、堪えきれなかった。だって、おかしいでしょ?会った時はあんなに驚いて警戒してたのに、仕事の話してたらすっかり忘れてるなんて」

本当におかしいらしく、手を口元に当てて背中は少し丸めた体勢で笑う彼にうっかり見惚れてしまう。

だってこんな無防備な表情、レアすぎる。いつも透明な鎧を着て人当たり良く振る舞う反面、簡単に感情を晒さない人間なはずなのに。

しばらく笑って気が済んだのか、私が間抜けな顔で見つめてる事に気付いたのか、んんっと咳払いした彼が口を開いた。

「で、どうする?個人的な話だけど、このままここでする?」

そう言った彼はすでにいつもの顔。微かに口角を上げた、紳士的で喰えない微笑。

「いえ、流石にここでは‥‥」

「だよね」

ここは会社の打ち合わせスペースの一角。扉も閉まってるし、聞き耳を立てられる事もないだろうけど、廊下を通る人も多いし、私が落ち着かない。だって、

「元カレと社内でプライベートな話するのは、ねぇ?」
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