cafe au lait
どうして昨日私を家に呼んだの?どうして抱いたの?彼女まで作ったくせにどうして、そんな感情がずっと早織の周りで渦巻いていた。
昨晩の出来事は良くも悪くもノリと流れに身を任せた結果だ。
定期的に行われるバイト先の飲み会で、一次会を終えた後、すっかり出来上がったスタッフたちに二次会のカラオケに連行され、終電を逃し、解散する頃である。
「俺の家近いから寄ってけ」
伊藤の彼女の存在を知っている早織は首を横に振ったが、すっかり飲まされて立っているのがやっとな上にピンヒールのせいで一人ではまともに歩けない状態だったため、大人しくその言葉に甘えた。
伊藤の彼女はつい数週間前まで同じ職場で働いていた。働いている年月は早織のほうが長いが、早織より三つ年上で、特別可愛いと言える容姿でなくとも人懐っこい彼女は誰からも好かれていた。初めは優しい彼女を好意的に思っていたが、それもいつしか早織の中で劣等感に変わっていた。
「ほら」
「へ?」
「歩けないんだろ。腕掴まってろ」
腕を差し出してはにかむ伊藤に早織の心は高鳴ってばかりだった。
”私のほうが先に好きになったのに。”
溢れそうな想いを、言えずにいる言葉を、全部呑み込んでその腕にしがみついた。
マンションに着いて伊藤が下手のドアを開けたとき、真っ暗な部屋を見て早織はどこか違和感を覚えた。玄関先には、いつも彼女が履いていた靴もなく、人気が感じられない。
「あれ、春花さんは?寝てる?」
「今日は実家帰ってる」
「いるのかと思った……」
「いるなんてって言ってない」
大人びた顔立ちとは裏腹に笑うとどこか幼さを感じさせる。今年で30を迎える男としてはどこか年相応に欠ける部分が時々垣間見える。その瞬間が早織は好きだった。