何度でも
side颯真
俺は何も知らされないまま、お見合い相手とお見合い場所へ向かってる。
「颯真さん。楽しみですね!」
禍堂院(かどういん)さんは隣で嬉しそうに笑っていた。
「えぇ」
いつもの笑顔で切り抜ける。
俺はこの女とお見合いをして、いずれ結婚するだろう。
これは始まりに過ぎない。
「あ、着きましたわ」
その声で車からおりると、そこにあったのは立派な遊園地だった。
お見合い場所に遊園地?
「この遊園地は志乃田さんのお父様が経営されてると聞きましたわ」
………………そうだったけ。
こんなテーマパークも手がけていたのか、俺のとこは。
「借りきりみたいね。思いっきり遊べるわ♪」
はしゃぐ禍堂院さんに後ろからついていく。
「何だろうなぁ…………」
「ん?どうされたの?」
「いえ………何でもありません」
何か懐かしい感じがするんだよ。
美桜のときみたいな、懐かしい感覚が……………。
「このコーヒーカップ可愛いわ!乗りましょう♪」
「あぁ」
頭がズキズキする。
『お母さん!俺これ乗りたい!』
『はいはい。じゃあ、乗りましょうか』
誰の記憶か分からないものが、俺の中に入ってくる。
『お父さんも乗ろう!』
『あぁ。じゃあ、乗ろうかな(笑)』
一見普通の微笑ましい家族のような光景……………。
コイツは……………俺!?
「どうされたの?やはり気分が悪いのでは!?」
「いえ……………お気遣いなく」
「あ、あそこにショップがあるわね!ちょっと寄りましょう」
清潔感のある、可愛らしいお店。
お土産などを売ってるそうだ。
「わぁ〜!このキーホルダー可愛い♪」
「どれですか?」
「このクマよ。ピンク色で可愛らしいわね」
「う"…………っ」
また………だ。
『あ、このクマピンク色だ』
『本当ね。可愛いわ』
『美桜にちょうどいいな。アイツ桜好きだし、ピンク色だし』
『じゃあ、お母さんもお土産買っちゃおう〜!』
「みお……………う………」
「みおうって?やはり気分がよろしくないわ。至急医者を」
「はい。医者を呼べ!」
「はっ」
俺はその瞬間記憶の蓋が開くような、そんな感覚に襲われた。
それはたぶん今まで閉じ込められてきた、忘れたくない記憶で。
かけがえのない、短い時間だった。
『美桜!学校行こうぜー!』
『ちょっと待ってよー!』
「はぁ……はぁ……………」
『私は桜好きだなぁ………』
『なんで?』
『だってさ、可愛くない?ピンク色だし、花は小さいし。何にしろ、私の名前に桜入ってるから好き!』
「美桜…………そうだ。美桜だ」
俺は小学生まで美桜と同じ町で育った。
美桜とは小さい頃からの幼なじみ。
そして、今も昔も変わらない大切なもやつ。
こんなところでうだうだなんてしてられない。
「行かなきゃ」
「颯真さん!?どこに行かれるの!?」
「ごめんな!行かなきゃならないとこがあるんだ!!」
会わないといけない。そう思った。
思い出せば最低なことばかりしてきた。
結局、美桜を再び傷つけてしまった。
それでも俺は美桜に会いたい。
会わなきゃダメなんだ。
________プルルル………プルルル…………♪
ん?誰だ?
この電話番号………変わってなければ理沙の番号だ。
「もしもし」
「ちょっと!!あんた直ぐ病院に来なさい!!!」
「どうしたんだ!?何かあったのか!!?」
「とにかく✽✽✽病院へ早く!!美桜が………
ひかれたの!!!!!」
その瞬間、俺の血の気がひくのが分かった。