春になったら君に会いたい
「え、いや、まじか」
ついつい心の声が漏れる。
もちろん、のぞみとまたデートができるのは嬉しいことだ。だが、余命の少ない彼女に一時退院の許可が降りたことには驚きを隠せない。
「このタイミングで許可降りるとは私も思ってなかったんだけどねー。まあ最後の思い出にってことかな」
のぞみは、俺の考えていることを理解してか、そう答えた。
さらりと言ってのけられた「最後」という言葉が胸に刺さる。
もう本当に時間が無いのだ。思い合うことはできても俺達は自由になれるわけじゃない。もう少しで別れが来て、こうやって話すことも叶わなくなる。
あとたった一回。きっとすぐに終わってしまう。楽しい思い出が別れを辛くするかもしれない。
でも、それでも。
またデートができる、そのことは純粋に嬉しかった。
「どこに行きたい?」
俺は、少し胸にグッと来てしまったものを押さえ込んで、微笑んで尋ねた。それを聞いて、のぞみも微笑む。だが、すぐには口を開かなかった。
「のぞみ? どうした?」
不思議に思って声を掛ければ、俺の持ってきた見舞いの花を一瞥して、ちょっと笑みを崩した。困ったような、悲しそうな、曖昧な表情になる。
「…あのね、一応行きたい場所はあるんだけど」
言いにくいところなのか、行きにくいところなのか、のぞみの言葉が詰まる。エスコートして、と言っていた前回とは大違いである。それも当然、「最後」なのだからだろう。
「どこでもいいよ。連れていく」
自然とそんな言葉が漏れた。「最後」だからこそ、行きたいところに行かなくてはならないと思った。のぞみは、俯きかけていた顔をパッと上げて、それから嬉しそうに頷いた。