春になったら君に会いたい

「私ね、冬くんのおすすめの桜スポットに行きたい」

その瞬間、どくんと大きく俺の心臓が鳴った。これは流石に予想してなかったのだ。

今は、秋。
紅葉が街を彩る季節である。

そんな今、桜を見たいというのだろうか。

どこにでも連れていく、という言葉が、なんの制限もされないものではないと、のぞみは分かっているはずなのに。世界に制限をかけられている彼女が、その制限を無視できるはずがない。彼女はきっと、そうやって今まで生きてきたはずだ。それは、もちろん俺も。

動揺した俺に向かって、のぞみはクスッと笑う。そして、俺の頭を軽くチョップした。

「なんだー、その深刻そうな顔は! 私は桜が見たいなんて言ってないぞー!」

彼女は、変な口調でそう言った。それを聞いて、我に返る。確かに思い返せば、桜スポットに行きたいとは言っていたが、桜を見たいとは言っていなかった気がする。だが、桜の咲いていない桜スポットを見て、何の意味があるのか。

「……もちろん、連れてくのはいいけど……なんつーか、えーと、なんで?」

何が聞きたいのか、いまいち分からない質問をしてしまった。しかし、のぞみは多分分かってくれるのだろう。彼女はとても聡いから。でもそれでいて、発言は意外と子供っぽかったりもする。

「生きてるうちに場所を確認しておけば、天国に行ってから、綺麗な桜を見られるでしょ?」

彼女の発言は、子どもっぽくて、でも俺に対しては……少し残酷だ。
< 123 / 203 >

この作品をシェア

pagetop