春になったら君に会いたい
「よかったじゃん。おめでとう。付き合ったりはしないの?」
正晴は、優しくそう言う。そこには一切茶化すような感じはない。
「付き合おうとは言わなかった。恋人になるのが俺たちにとっての正解だとは思わなかったからな」
恋人になりたい、付き合いたい。
その気持ちがないわけがない。だが、そこに何の意味があるのか、俺には分からなかった。今だって、のぞみとの日々は楽しい。関係性の名前を変えてもきっとそこに大きな差異はないはずだ。
「まあ、付き合うことが全てじゃないしね。冬がいいと思ったことが正解でしょ」
俺の発言に全面同意した正晴は、もう一度「よかったね」と微笑んだ。昨日ののぞみの言葉も嬉しかったが、こうやって祝ってくれる存在がいるということも嬉しかった。二日続けて嬉しいことばかりだ。
話がとりあえず切れたところで、正晴がいつも頼んでいる日替わりのケーキセットが運ばれてきた。叔母さんが気を回したのだろう。ご丁寧に俺の分も用意されている。
「えっと、今日のケーキはザッハトルテで、飲み物はコーヒーですね! お砂糖とミルクはご自由にどうぞ!」
運んできたのは、バイトの女子高生だ。俺はあまり話したことはないが、元気なところがいいと叔母さんが褒めていたことを覚えている。彼女は、お礼を言う正晴のことを見て、少し顔を赤らめた。その顔は恋する乙女とでも形容できそうな感じだ。
「さすがにモテるね、お前は」
彼女が奥に戻っていったのを確認して、俺は溜息をついた。別に僻みなどではなく、むしろ同情である。多くの女の子からアプローチされることは、決していいことだけではないだろう。正晴も微妙な困り顔をして頷く。
「まあ、さっきの子はわかんないけど、学校とかだとそれなりにね。好意を寄せられるのは嬉しいんだけど、ちょっと困るかな。トラブルは避けときたい」
到底その女の子たちには聞かせられないような本音に苦笑がもれる。人気者も大変だ。