春になったら君に会いたい

「冬くん!」

俺の姿を見た彼女は、嬉しそうな声をあげた。それから俺の持っているものに気づいて目を輝かせる。
 
「たまには花でもと思って。プリザーブドフラワーってやつ」
「わー、ありがとう! 冬くん私の趣味分かってるね」
「前にジニアを気に入ってたみたいだから、ジニアが入ってるのにしてもらったんだよ」

ベッド脇のテーブルに置くと、のぞみは興味津々な様子でケースを撫でた。淡い色の花がのぞみの雰囲気と合う。実はそこそこ値が張ったのだが、いい買い物だったようだ。落ち気味だった気持ちも、少しだけ盛り返す。

「冬くん今日から入院なんだよね?」
「ああ。いつ寝ちゃうか分かんないからな。日付変わってすぐに眠気がくるかもしれないし」
「そっか。じゃあ私、夜中にこっそり冬くんの部屋行っちゃおっかなー」

いたずらっぽい表情も相まって、ちょっと試すような言い方だ。のぞみの体のことを考えたら、そんなことはさせられない。それにもしバレたら面倒なことになるのは目に見えていた。ただ、夜にこっそりしゃべったりしたら楽しそうだ、なんて純粋な気持ちも湧いてしまう。悩んだ俺は、あえてノーコメントで誤魔化した。

のぞみの病室から戻ってきた後は、検査やら何やらでバタバタした。夕方に顔を出してくれた正晴とは少し話せたが、ゆっくりできるほどの時間は取れなかった。そのうちに夜になる。病院で迎える夜は久々で、慣れているはずなのに慣れない感じもした。


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