春になったら君に会いたい

地面が濡れているため、毎年の定位置ではなく、休憩スペースに座ることにした。雨のせいか人がほとんどいない。そのうえ、目当ての桜の花びらもだいぶ雨に散らされていた。

それでも、桜は相変わらず綺麗だった。


「綺麗だね」

正晴が穏やかな声でそう言った。顔を見ると、とても優しい表情をしている。

「そんな反応してくれるんなら、もっと早くに連れてくればよかったな」

そんな本心を口に出してしまうくらい、いい表情だ。

「え、そんな反応って何? 別に普通じゃない?」
「無自覚か。なんかめっちゃ優しい顔してたぞ」
「それはいつものことじゃん。俺すごく優しいから」
「自分で言うなよ」

そんなやり取りをしながら、自然と笑った。こうして軽口を叩いていると、いつもの日々が戻ってきた感じがする。

去年の今くらいまでは、これが日常だったのだ。むしろこれが全てだった。

それからしばらくは、二人して黙ったまま桜を見ていた。
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