春になったら君に会いたい


「正晴に話しときたいことがある」

数分経って俺が改まったように伝えると、正晴はこちらに顔を向けてうなずいた。もうだいぶ長い付き合いだからか、俺が何かを伝えたがっているということには気づいていたようだ。

「前から俺の体質みたいなのの研究してる人がいて、協力してくれって言われてたんだ。そんで、こないだそれを承諾した」

退院した日に電話を掛けた相手は、その研究員である。これまでは協力を頼まれてもずっと断ってきた。研究に協力することで、逆に悪い状況になるのが怖かったからだ。

今だって、失った冬を取り戻したいと望むのがいいことだとは思えない。それでも、何も行動しなければ、のぞみの言う「希望であふれた世界」は訪れないだろう。自分の体とちゃんと向き合う、それが俺にとって一番の決意だった。


「そっか」
正晴はなんともいえない複雑な表情をしていた。でも、その中に否定的なニュアンスは含まれていないように見えた。そして、一度目を伏せてから、意味深に笑いかけてくる。

「……じゃあ俺は、一之瀬に告ろうかな」
「はぁ?」

急な言葉に、変な声が漏れてしまう。一之瀬は正晴の元カノだ。彼女の話がなんで今出てくるのか、意味がわからなかった。
気がつけば雨は止んでいた。互いの声が先ほどまでよりクリアに響く。

「前に言ったじゃん。まだ未練あるって」
「言ってたけど、なんでこのタイミング?」
「前までの冬だったらさ、研究に協力するなんて言わなかったでしょ」
「まあ、そうだけど」

いまいち何が言いたいのかわからない。俺の決意と正晴の告白になんの関係があるのだろうか。正晴は俺の顔を見て、なんだか楽しそうにしていた。こういうときの正晴は、本当にわからない。

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