春になったら君に会いたい
「あのさ冬、きっと大変だろうけど……幸せになろうね」
神妙な感じで正晴が言った。あえてその二歩手前で俺も立ち止まる。言いたいことはわかった。だが、いつもの仕返しに意地悪をしたい気分だった。
「俺に告ってどうすんだよ。一之瀬に言え」
「ばーか、そういう意味じゃないよ」
振り返った顔は言葉に反して笑っていた。幸せといえば、のぞみの言っていたことを思い出す。
「そういえば、前にのぞみが言ってた。辛いこともあるけど、幸せなんだって」
「そっか、のぞみちゃんは強いね」
「ああ、ほんとに」
幸せについての話はここでしたものだった。
シンプルに寂しいと思った。のぞみといた幸せな時間が恋しかった。
「幸せになりたい」
望みを声に出す。
「うん、幸せになろう」
もう一度、正晴が言う。
顔を上げると、澄んだ空に桜の花が立派に咲いていた。希望であふれた世界が本当にあるのか、俺にはまだ分からない。でも、この美しい景色が、その世界への入口だったらいいと思った。
「そうだな」
花びらが舞って、俺の手の中にちょうど収まる。俺と正晴は顔を見合せて笑った。
また、春が始まった。
*fin.*