春になったら君に会いたい
春になり、俺は長い眠りから目を覚ました。
気だるく重いこの感覚は、もう何度目だろうか。小さい頃からの体質のせいで、春の目覚めはあまりよくない。
俺が今いるのは、白い天井にシンプルな内装。とある大学病院の一室である。
力が入らない体を少しだけ動かして、自分の生を確認する。
ああ、相変わらず生きている。
驚くわけでもないし、まったく嬉しくないというわけでもない。でも、少し憂鬱になったのも事実だ。
それから数十分後、病室のドアが雑に開かれた。
「あっ、冬起きたんだー」
迷いなくズカズカと入ってきた男の子が俺を見て言う。その顔には、若干の安堵が浮かんでいるのが読み取れた。
「なーんか、冬が起きると春が来たって感じがするよね」
そう言ってくすくすと笑っている彼の名前は、佐原正晴。小学校の頃からの俺の唯一の友人だ。
顔が整っているうえに、やらせれば大体何でもできる高スペックの持ち主で、おそらく結構女子からモテる。
「正晴、今日高校は?」
「……長いこと寝てたから頭働いてないの? もうとっくに放課後だよ」
正晴が自身の腕時計を見せながら言う。小馬鹿にしたような言い方には少しイラッとしたが、いつものことなので気にしないでおいた。
それに、正晴の言ったことに間違いはない。
長いこと寝ていると本当に感覚が狂うのだ。それに俺は高校に通っていないから「放課後」というものに縁がない。
同い年なのに差を見せつけられたようで少し気持ちが沈んだ。
表情が暗くなった俺をちらっと見てから、正晴は近くにあった椅子に座った。長居モードに入ったらしい。スマホをバックから取り出していじり始めている。