春になったら君に会いたい
「……てか、正晴は自己紹介しなくていいのか?」
二人の俺を馬鹿にしたような会話は、俺のその一言で途切れた。
正晴は忘れてた、というように舌を軽く出してみせる。
前も言ったが、男、しかも親友のそんなものを見せられても嬉しくない。そのため、俺はスッと目を逸らした。
「俺は佐原正晴っていいます。正に晴れるで正晴ね。冬の親友です。どうぞよろしく」
正晴は、俺が目を逸らしたことを全く気にも留めず、爽やかな笑顔で自己紹介をした。
「私のほうこそよろしくお願いします」
のぞみも話してて慣れたのか、可愛い笑顔で答えていた。
「同い年だからタメ口でいいからね」
「うん、わかった! じゃあ、正晴くんって呼んでいい?」
「もちろん。俺ものぞみちゃんって呼ぶね」
女の子をあっさり名前呼びできるあたり、正晴は俺よりも断然女の子に慣れている。まあ、正晴は共学の高校に通っているので、当然といえば当然だろう。
「冬くんと正晴くんは何してたの?」
自己紹介が終わり、のぞみが聞いてきた。微妙に散らかったこの病室内を見れば、その質問が出てくるのは普通だ。
「俺明日退院だから、その支度してたんだよ」
「そうなの? わー、おめでとう!」
のぞみは自分のことのように喜んでくれている。
どうせ冬になれば、またここに戻ってくるんだけど、なんて言えるわけがなくて、俺は嬉しそうなふりをした。
いや、戻ってくると分かっていても、病院内にずっといるよりは外にいられる方が嬉しいには違いないのだが。
正晴をチラッと見ると、一瞬苦そうな顔をしたが、すぐに表情を戻していた。