春になったら君に会いたい



「あ、でも、冬くん退院しちゃうと少し寂しいかも……」

のぞみが思い出したように言う。その声はしょんぼりしていて、申し訳ないような、それでいてむず痒いような感じがした。


「退院してものぞみの見舞いには来るよ。俺あんまり忙しくないし」

彼女の顔が、ぱっと明るくなった。表情がコロコロと変わって面白い。

「わー、嬉しい! いつでも来てね! 待ってるから」

よほど嬉しかったのか、前のめり気味に言われる。
思った以上に俺のことを好いてくれているのかもしれない。

……もちろん、深い意味ではないけど。






その後、のぞみはお邪魔しました、と自室へ帰り、俺たちは作業を再開した。

正晴のおかげか、無事支度は終わり、あとは明日になるのを待つだけになった。




そして、翌日。

病院を出た俺は、久々に自宅へ帰り、懐かしいにおいに包まれた。やっぱり自宅は安心する。

ここまで来て、やっと俺は春というものを実感した。

< 36 / 203 >

この作品をシェア

pagetop