春になったら君に会いたい
「ピンポーン」
インターフォンの黒いボタンを押すと、聞き慣れた機械音が響いた。そこらじゅうの暑っ苦しい蝉の声と混ざり合う。
今、俺は正晴の家の前にいる。借りていた服を返しに来たのだ。
ガチャガチャと音がして、白いドアが開けられた。ひょこっと顔を出したのはもちろん正晴である。
「あ、冬やっと来た。待ちくたびれたよ」
「わりぃ、バイトが長引いてな」
「別にいいよ。どうぞ、上がって」
正晴に促されるままに、家の中に入った。何度も来たことがあるので、勝手はもうわかっている。
玄関に出ている靴が一足しかないのを見る限り、家にいるのは正晴だけだと推測された。
二階にある正晴の部屋に着くと、俺はまず借りていた洋服を返した。正晴はそれを受け取ると、タンスにしまい、ベッドの上に座った。俺は床に敷いてあるカーペットの上に座る。
もはやここが定位置と行ってもいいくらい馴染んでいた。
「あ、そうだ。服貸してくれたお礼に菓子持ってきたんだけど食う?」
一息ついたところで尋ねると、正晴は嬉しそうに頷いた。俺と同じかそれ以上の甘いもの好きなので、菓子への反応は良い。
「やったー! エクレアだ!」
そう言って喜んでる姿は、心なしか子供っぽく見える。
それがおかしくてクスッと笑うと、正晴は少しムッとした。しかし、エクレアの誘惑には勝てないらしく、何の反撃もないまま包みを開けて食べ始めた。