春になったら君に会いたい


痛い胸と溢れそうになる涙を我慢して、家まで急いで帰った。

家に着くと、リビングにいた母さんが何か言ってきたが耳に入らない。一人になりたくて、ただ一目散に自分の部屋に向かった。



ガン!

部屋に入り、俺は思いきりドアを閉めた。もう抑えはきかなかった。

涙がどんどん溢れてくる。
痛くて、苦しくて、辛くて。

膝から崩れ落ちるようにベッドに倒れ込むと、シーツはすぐに濡れ始めた。


静かな部屋に、嗚咽と鼻をすする音だけが響く。


どうしてのぞみじゃなきゃいけなかったんだ。
そう思った。

自分勝手で、無責任だけど、他の誰かがよかった。俺とは関係のない誰かに代わってほしかった。



世界は不条理だ。

自分が苦しいときでも笑顔を見せるほど優しくて健気な子が、病気で二十歳にもなれずに死ぬなんておかしい。


でも、本当はそんなこと今更だった。
そんな人はたくさんいる。いい人だから長生きなわけじゃない。いい人だから病気にならないわけじゃない。

それが現実だということは昔から知っていた。



拭わないからかシーツにできた染みはどんどん広がっていく。

ここまでひどく泣いたのは、何年ぶりだろうか。どれだけ泣いても、胸に広がる痛みはとれない。

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