春になったら君に会いたい


秋の紅葉は、春の桜には劣るが、俺の好きな風景の一つだ。

街の木々にはまだ緑色の葉ばかりだが、しだいに色鮮やかに変わっていくだろう。そんなことを考えながら、俺は病院へ向かっていた。

病院に行くのは十日ぶり。のぞみと出会ってから、十日も会わなかったのは初めてである。忙しい恋人同士なんかよりよっぽど会ってる回数が多いんだなと思った。


なぜ十日も会わなかったのかというと、母さんが出張だったため、俺が家事をしなければならなかったからだ。それに、のぞみの検査も重なっていて、なかなかお互いの都合が合わなかったのだ。

たった十日間だけでも、タイムリミットがあるととても惜しくなる。そのため、今日俺は久々に会えることにわくわくしていた。


病院へ着くと、特有の臭いが鼻腔をついた。もうこの臭いには慣れすぎている。それなのに、この臭いを嗅ぐだけで涙腺が緩むのは、俺の心が弱くなった証拠だろうか。

ふぅ、と大きく息を吐き、軽く頬を叩いてから、のぞみの病室へ向かう。


一緒にいるときは笑顔でいよう。
それは、夏の暮れ頃に決めたマイルールだった。

辛くても、泣きたくても笑顔で会いに行くことが大切だと思った。

だから、今日も笑顔で病室のドアを開けた。

「おはよ、のぞみ」

中に声をかけると、のぞみは少し遅れてにこっと笑う。その笑いは少し力なかったが、相変わらず可愛かった。

「冬くん、おはよう。なんか久しぶりな気がするね」

「そうだな。たった十日だけなのにな」

のぞみが座っているベッドに近づいて、横の椅子に腰を下ろす。硬いパイプ椅子の感覚が少し懐かしく感じられた。

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