春になったら君に会いたい
「ところでさ、貸してた漫画読んだ?」
いつも通り話し始める。
「……え、あっ、うん! すごく面白かったよ」
「? おう、そうか。バトルものだから女の子には読みづらいかなって思ってたんだけど、それなら良かったよ」
「……あ、私、バトル系も結構好きだから」
「? へぇ、そうなんだ」
何かおかしい。そんな気がした。
内容はいつも通りなんだが、なんというかのぞみの作る間が引っかかった。
入ってきたときもそうだが、今日は反応が若干遅い。妙なタイムラグがある。
気のせいならいいが、もし何かあるなら心配だった。
「のぞみ、なんかあった? ちょっとぼーっとしてるみたいだけど」
怒ってるように思わせないためにゆっくりと言うと、のぞみはハッとしたように顔を上げた。そして一瞬、顔を歪ませる。それは本当に一瞬だった。普通の人なら気づけないくらいに。
すぐにそれは笑顔に変わった。しかし、どこか無理に笑っているように見える。
「ごめんねー、昨日寝不足だったの。ここの部屋暖かいし、うとうとしてきちゃって」
嘘だな、と思った。
明確な根拠はない。だけど、さっきの歪んだ顔と、わざとらしい笑顔を見たら、そう思わずにはいられなかった。