春になったら君に会いたい


「え、なになに冬くんどうしたの! タラシキャラに変更!? 私そんなお知らせ聞いてないよ」

のぞみのその言葉で、自分が何を言ったか理解した。途端に頬に血が集まってくる。

「可愛いなんてそんなにさらっと言えるの冬くんじゃない!」

「う、うるせぇ! 俺だって普通に可愛いとか言うわ!」

もちろん照れ隠し。というか、単なる逆ギレ。

正晴ならまだしも、俺はそんなことを素で言うキャラじゃないと自分でも思う。


「うわぁ、冬くんが可愛いって! 嬉しいけど、我が子が巣立つみたいで複雑ー」

冗談を言って笑う彼女は、なんだかんだ照れているようだ。

まあ、結果オーライというやつなのかもしれない。


「のぞみはむしろ妹感あるけどな」

「えー、そう? せめてお姉ちゃんじゃない?」

「それはない。絶対年下」

「そんなことない、年上だよ。だって、冬くん誕生日いつ?」

「八月二十日だけど」

「私は四月二日。ほら、私の方が早い! だから、年上!」

「いや、そういうこと言ってる時点で子供っぽい。精神年齢で言えば、余裕で俺が上だな」


しょうもない話をしつつ、のぞみの反応を観察する。さっきまでとは違って、反応速度もいつも通りだし、笑顔も自然なものになっていた。

俺の思い違いってことはないと思うが、深く考えすぎるのもよくないかもしれない。誰しもぼーっとすることぐらいあるのだから。


「にしても、冬くんが可愛いって言ってくれるんなら毎日二つ結びにしよっかな」

毛先をクルクルといじくりながら、そうのぞみが言う。上目遣いと嬉しそうな可愛い笑顔に、俺は不安を一度胸にしまった。


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