HEROに花束を(完)
*1*
運命
開け放たれた窓から、爽やかな風が桜の花びらを乗せて流れてくる。
白いカーテンが微風と合わせて小さく踊り、それにつられるようにノートがパラパラとめくられる。
薄いノートブックの紙の下端に描き進めた絵が、
まるで本当に生きているかのように動いてゆく。
それは誰か知らない小さな男の子が、
桜の花びらを追いかけている絵。
きっとその子は笑っているんだろうなって想像して、口角を少しだけあげる。
小さい頃からずっと共に生きてきた、空想の世界の男の子は、空白のページにめくられて消える。
わたしは鉛筆を握り直すと、続きをどうしようかと思考を巡らせる。
そんな時、一枚の桜の花びらが教室に舞い込んできた。
その桜は生徒の頭上を優雅に泳いで行く。
まるで静止画みたいに鮮明に見えるその花びらを、わたしは無意識に視線で追っていた。
するとそれは、一人の生徒の髪の毛の上に舞い降りた。
窓から差し込む光によって茶色く見えるその髪の持ち主は…
「うわっ!びびった!」
授業中に大きな声で叫んだかと思えば、ガタッと椅子を引いて急に立ち上がるものだから、教室中笑いに包まれる。
「なんだ!桜じゃねーか!」
「おい、結城!」
先生の雷が落ちるものの、その子はピクリともしないでけらけら笑っている。
かと思えばいきなり真面目な表情になったから、みんなは何事だろうかと身を乗り出す。
「なんかこの桜…おしりみてえ。」
その発言に生徒たちも思わずまた噴き出す。
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