HEROに花束を(完)

「ごめん。」

「なんで…。」

「いや、ごめん。」


それに…


委員会なんて…ない、か。


まあ、心の底では気づいてたけど。


全部全部、気づいてたけど。


中学の時と被ってるなって、気づいてたけど…。



あえて気づかないふりをした。



わたしが何も答えずに雑巾をもう一度絞ろうとすれば、スッと悠の手が伸びてきてわたしの雑巾を奪った。

その瞬間に触れた小指がなぜだか少しだけ熱い。


「え?」

「俺の机の中。」

「…?」

「教科書入ってるからとってくれね?」

「あ、うん。」


立ち上がって、ふとおかしいことに気づく。

振り返ればわたしの代わりに飛び散った水を拭き取っている悠。


…やられた。


本当に、良いやつすぎてちょっとだけ胸が痛い。


窓際の悠の机の中を除けば、ぐしゃぐしゃになったプリントや数学のノート。


「整理しないの?」

なんて聞けば、

「それでもしてる方だしー。」

なんて返事が返ってきてクスッと笑う。


「悠って教科書持って帰るんだっけ?」


そのあとしばしの間があって、


「…今日は、そういう気分。」


ってなぜだか少しだけばつが悪そうな顔をする彼。


「ふーん。」


「……穂花掃除で、一人で帰ることになるかもしれねーだろ。そしたら、道間違えるかもしれないし!だから、お、俺様がお迎えに来たんだよ!文句あるか?」


すると一気にそうまくしたてる悠。ほんのりと赤い耳はきっと夕焼けのせい。


「ふふっ…うん、そうだね。道間違えるかも。」


なんて小さく笑ってそう返せば、


「そうだ、そうだ。」


なんて頷く悠。


教科書を持って悠に近づけば、両膝をついて掃除をしていた悠が体制を起こし、大きな瞳が上目遣いにわたしを見上げる。


子犬…


って、いけないけない。
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