HEROに花束を(完)

友達ができました


八百屋さんの角を曲がったら、次は右に曲がる。

老犬ジロの家がある先に、とても長い坂がある。


ーシャーー、チャリチャリ、シャーっ


自転車で一気に坂を下ると、髪の毛が一瞬宙にふわっと浮いて、そのあと引っ張られるように後ろに伸びる。


「気持ち良い〜!」


ジロしかいないことをいいことに、思わず声に出してしまう。


八百屋さんの先からは、わたしが16年間ずっと育ってきた馴染み深い地元。


学校から電車で一時間。

そしてそのあと自転車で30分。


しばらく足を伸ばして自転車の勢いに任せて走っていると、


住宅街が途切れた途端に広い菜花畑が辺り一面を埋め尽くす。


7月になれば目の眩むほど綺麗な黄色い花を咲かせる。


季節外れのトンボが頭上を飛び、野良猫のミケがギャッと道を開ける。


そして桜の木々が立ち並ぶ道に出ると、


その桃色のベールの奥がわたしの家。

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