HEROに花束を(完)

地面に投げ出されたノートが、桜の葉を乗せた風によってぺらぺらとめくられる。


桜の花を追う男の子は、それはそれは優しい笑顔を灯している。


そして大きな桜の木が現れて、その子は消える。



「っ…ぉ…と…さん…」



その声は誰に届くこともなく宙に浮かぶ。


滲む視界で顔を上げれば、あの人が一人の少女と一緒に背を向けて歩み去ってゆくのが見えた。


「…っだめっ…お父さん!行かないでっ…!!」


いつの日かのように、わたしは声を振り絞る。


だけどあの人が振り返ることはない。


「っお父さん!!」


今回ばかりは、振り返って、小さく微笑んでくれるかと思った。


だけどあの人の背中はどんどんと小さくなってゆく。



「…おとう…さ…っ」

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