HEROに花束を(完)
桜の木々が裸になって、冷たい風が吹き付ける頃、お父さんは滅多に家に戻らなくなった。
お義母さんもあまり笑わなくなった。
おばあちゃんも静かになって、お姉ちゃんも機嫌が悪いことが多かった。
そんな中、じいちゃんだけは、わたしに笑いかけてくれた。
「ほのちゃん、お散歩に行こうか。」
前ならお父さんと二人で歩いた雪道を、その年はじいちゃんと散歩した。
「お父さんはね、すっごく大きな雪だるまを作れるんだよ!」
「雪だるまおばけになっちゃうな!あはは!」
じいちゃんは歯茎を見せて笑った。
「あははっ!変なの!おばけだって!」
わたしはよくじいちゃんにお父さんの自慢をした。
お父さんは強くて、キャッチボールが上手で、お弁当を作れて、お裁縫だってできて、授業参観では一番大きく拍手をしてくれて、運動会では一番速くて、お仕事を頑張ってて…
お父さんの自慢はいくらだってあった。
「それにね!」
わたしはじいちゃんのしわしわの手を握りながら言った。
「お父さんはわたしを産んでくれたお母さんのことが大好きで、穂花のことも世界で一番大好きなんだよ!」