HEROに花束を(完)
「ほのー!」
一階からお母さんの声が聞こえてわたしはノートを慌てて袋に隠した。
「はーい!」
「買い物行ってきてくれるー?」
「…はーい。」
わたしは口を尖らせながらもしぶしぶとお母さんの元へ急ぐ。
怒ると怖いんだもん。
「ちょっとこっち手離せなくてさ。八百屋さんで卵と牛乳、お願いね。」
調理室にいるお母さんは小麦粉をエプロンで拭きながら鞄を漁っている。
強引にお金を握らされ、わたしはそのままUターン。
おばあちゃんに『ごめんよ』なんて言われたらもちろん嫌な顔はできないわたしは、
『いってきます』
と言って表玄関を開けたところで、
またまた現れたお母さんにすごくこわ〜い笑顔で老犬クロの散歩を頼まれた。
ノーと言えないのは、我が家ではお母さんは絶対的な存在であり、完全なるディクテーターシップを発揮しているからだ。
しっぽを振る老犬のリードを握ると、
さっき通ったばかりの道をまた引き返す。
鈴虫の合唱に耳を傾けながら、さあて、面倒臭いなと思う。
ため息をどうにか抑えようと思いほっぺたを軽く叩く。