HEROに花束を(完)
「穂花は…っ、幸せかっ。」
そう聞かれて、わたしは小さく息を吸った。
「…幸せだよ。」
父は、顔を覆って泣いた。
父があの日、何を思ってわたしを置いて逃げて、何を思って今まで生活していたのかはわからない。
ただ、苦しんでいたのはわたしだけじゃなかったんだってことだけはわかって、すごく安心した。
目の前で声を上げて泣く父を、慰めようとは思わなかった。
そんな父を見て、涙が出ることもなかった。
わたしはきっと成長したんだ。
父は赤みを帯びた瞳でわたしを見つめると、切なそうにつぶやいた。
「穂花は、亡くなったお母さんにすごく似ているな。」
わたしは何も答えない。
「美奈子にそっくりだ。」
冷たい北風が、父の涙の跡が残ったほおを乱暴に嬲る。
父は震える手でわたしの頰に手を伸ばした。
わたしはそれを払いのけた。