HEROに花束を(完)
かすかに甘い香りがする。
桜の香りかなあ。
「あっ…。」
そんな時、わたしはその桜の木々の横を、二階にいても聞こえるほど大きな声で笑いながらかけて行く後ろ姿を見つけた。
そのあとを何人もの生徒が続いている。
「あの子だ…。」
わたしは無意識に持ち歩いていたノートを広げると、
右端に男の子が駆けている姿を描いた。
あの人しかいない。
思わず窓から身を乗り出す。
とうとうこの絵の主人公を見つけた。
思わず頰を緩ませる。
「ねえ、君のこと見つけたよ?」
わたしはそっと空想の男の子に話しかけた。
もう、一人じゃないんだよね?
君がいてくれるんだよね?
わたしはもう一度窓から校庭を覗き込んだ。
だけど、まるで魔法のように彼は桜の花々の間に消えてしまった。
なんだかそれがまたおとぎ話みたいで、わたしは鉛筆をぎゅっと握りしめた。
ほんのちょっぴりだけ、運命を感じた。
ー
まるでわたしの白紙の人生の一ページが始まるみたいに。
その時少しだけ胸が躍ったのをわたしは今でも覚えている。
きっとあの瞬間から、わたしの小さな物語は始まっていた。