HEROに花束を(完)
「俺たち、久しぶりだね。」
わたしは黙々と食べる。
「どう?なんかあった?」
そう聞かれて、わたしは目線を落とす。
「蓮さんは知ってるくせに。」
「あははっ、そうだな。」
蓮さんはすこしだけ悲しそうに目尻を下げた。
「悠は、相変わらず、勝手な男だなあ。」
わたしはどんどんと気持ちが沈むのを抑えるようにケーキを運ぶ。
「どうして引っ越したのか、しってますか?」
蓮さんは答えない。
「蓮さんなら知ってるんじゃないですか。」
この前、蓮さんは悠に興味がないと答えていた。
でも、それは上手くはぐらかされたのだと、わたしは後々気づいてしまったのだ。
嘘が上手な蓮さんだ。きっと結構悠のことを知っているのだろう。
「悠と美菜と俺は実は同じ通りに住んでてね、小さい頃から、まあお互いのことは知っていたかな。美菜は従姉妹だけど、悠は年下だしあんまり興味なかったから、特に仲良くはしてなかったけどね。」
蓮さんは紅茶をすすった。
「悠が…病気なのは、もう、知ってるよね。」
『悠は、網膜色素変性症っていう病気なの。』
『暗いところで働く細胞に異変が起こって、だんだんと細胞が死んでいくから、網膜が萎縮してっ、…っ光を感じられなくなって、暗いところではものが見えにくくなるっ…。』
『だからっ、悠はいつも懐中電灯を持っているっ…だからっ、危なくて夜は出かけられないっ。それに…っこの病状は進行していってるっ…。』