HEROに花束を(完)
美菜ちゃんはわたしの目を探るように見つめる。
わたしが美菜ちゃんの嘘を知っていることが、まるでお互い何か通じ合うものがあるのかのように、スッと伝わったような気がした。
わたし達はやっぱり大きな一つの蜘蛛の巣に絡んだ昆虫のようだ。お互いのことは見えないしわからない。けれども、蜘蛛の糸に絡む苦痛は二匹ともきっと同じだろう。
複雑でこんがらがった関係性のわたし達二人は、きっとこの距離感がお互いのためなのではないだろうか、と、わたしは心の奥で考えた。
美菜ちゃんは小さく息を吸うと、
「自分で…渡してきたら?」
と、少しだけ寂しげに瞳を揺らしながら、それでいてはっきりと、そう言葉を紡いた。
「えっ!?」
「悠には止められてるけど…わたし、もう、これ以上嘘…つけないよ。ただでさえ…昔、ひどい嘘をついたのに…」
父と美菜ちゃんの姿が脳裏に浮かぶ。
だけど今では、苦しいとは思わない。
二人には幸せになって欲しいと思う。
ただ純粋にそう思えるようになったことに、改めて自分の成長を感じた瞬間だった。
美菜ちゃんは急いでコートを羽織ると、外に出てきた。
「バス停まで、送る。」