HEROに花束を(完)

教室に入った瞬間に授業を開始するチャイムが鳴った。

ギリギリセーフ。


わたしは呼吸を整えながら数学の教科書を出した。


その時、斜め前に座っている悠が振り返った。


『どこにいたんだよ?』


口パクで伝えてくる。


桜の木の後ろに隠れていました、なんてとてもじゃないけど言えない。


『トイレ』

そう返せば、

『あー、オッケ。』

って前を向く彼。


今までは周りの視線なんか気にならなかったのに、

今では痛いほど感じる。



わたしがよく思われていないのは一目瞭然だ。


だけど悠は全く気にする様子がないんだ。



わたしなんかと話したら悠の地位が下がるのに、

悠はどうしてそれでもわたしを気にかけてくれるの?



それって、同情?


わたしにはわからない。


悠の行動の意味がわからないよ。


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