HEROに花束を(完)

お姉ちゃんをごまかせたことは一度もない。


中学の時、美菜と仲がこじれた時も、今思い返せば、たった一人、そのことを相談できた相手だった。


記憶を辿れば、わたしはいつだって一人だって勝手に思い込んでいたけれど、お姉ちゃんがそばにいてくれていた。


辛かった時もお母さんの前だと泣けなかったけど、ちょっと毒舌でドライなお姉ちゃんの前だと、守られているような気がしてよく泣きついたものだった。


お姉ちゃんのキリッとした二重の瞳を見つめる。


その中に映る自分の髪はくるくるしてて、顔もなんだか弱そうで、自分がすごく情けなく見えた。


お姉ちゃんの前だと、自分がいかに小さな生き物かを思い知らされる
ことがよくある。


「悠ちゃんのこと引きずってるの?」


唐突にそう聞かれて思わずむせそうになった。


「べ、つに。」

「あっそ。」


お姉ちゃんはそう言って髪を無造作にポニーテールにまとめる。


「穂花が悠に渡すんだって意気込んでたあのDVD、まだ家にあるけど。」


お姉ちゃんにそう言われてまた気持ちが沈む。


結局渡せなかった。


顔を合わせられなかったから。



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