HEROに花束を(完)
「ばーか。」
少し震えてしまったけれど、これはいつもだったら悠がわたしにいう台詞。
悠はきょとんしてとわたしを見つめている。
「何?それで来なくなると思った?」
少し挑発的な口調にする。
「わたし、来るからね?これからも、ずっと、ずっと、来るから。来年も再来年も、一緒に桜見るんだから。」
悠の表情が若干揺れた。
「一方的に突き放した悠への仕返しだから。振られた女は強いんだから。」
そう言って口角を上げれば、
「ふっ、振られた女な。」
って悠がくしゃっと笑った。
わたしが好きになった理由の一つである、悠の弾けるような笑った顔。
久しぶりに見た悠の柔らかい微笑みに、わたしはまたこみ上げてきた何かを無理やり封印した。
まるで猫に追われて穴からもがきでようとしているネズミの尻尾を抑えるように。
もうこれ以上泣いたらダメだから。
「そーよ、わたし、振られてんだから。それも一回とかじゃなくて結構振られてるから。だから超絶ハートが強くなったんだからね!」
「ぷっ、ははっ、ばーか。」
やっぱり悠は笑った顔が一番だ。
「だから毎日でも来てやるぞー!」
「はいはい、わかった。」
ゆっくりと、温かい何かで体が溶かされていくように、わたしは悠の優しい表情に吸い込まれていくような気がした。
病室の中の悠も、やっぱりいつもの、日焼けした顔で笑う悠だった。