HEROに花束を(完)
そのあと、どうしよう、話題を作らなきゃ…って、焦って顔を上げれば、悠も同じことを考えていたのだろうか。
「えっと…。」
キョロっと辺りを見回すその仕草も、普段よりも悠が瞬きしてる回数が多いってことに気づいてしまうことにも、いちいちキュンと胸が騒ぐ。
だけど悠はそんなわたしを見て、どこか余裕そうに笑みを作った。さっきまであんなに照れてたくせに…どうして余裕なのよ。
そんな思いを込めて悠を軽く睨めば、
「穂花って忙しいよな、表情の変化。」
「へっ、それ悠が言うこと?」
「んー…なんか、ちょっとかわいい、照れてんの。」
っ……?!?
息が止まるかと思った。ど、どうしたの…急に。おかしいよ。いつもの悠じゃない。
「あ、いや…その、雰囲気変わったな…って思って。」
「え?」
「前のお前、どこか寂しそうだったから。」
悠は小さく笑みを作ると、何気なくわたしのカバンに触れた。
「ん?」
わたしが問いかけると、
「…ノート。」
そう呟かれ、思わずビクッとした。
「お前、いつもノート持ってきてるだろ。」
「…な、んで?」
悠は視線を上げずに、懐かしげに少しだけ口元を緩ませた。
「初めて穂花見たとき、絵を描いてたノート。」
「っ…?」
「桜の木の下で、話しかけてたノート。」
悠の穏やかな声が体に染み込む。
「穂花の大事なノート。」
「し…って、たの?」
驚きを隠せずに悠を見つめる。
ノートの存在を知っていたのは、わたしだけ…かと思ってた。
別に…必死に隠していたわけじゃない。
ただ、誰にも見せれなかった。
その時、ふと、なぜ今思い出したのかわからないけれど、一年前のある記憶が蘇ってきた。