HEROに花束を(完)


「…やめろ。」

一年生の廊下、ぼんやりと体育で汗ばんだ手を洗おうと蛇口の水をひねったとき、教室から誰かの声が聞こえてきた。

窓から差し込むのは、春の終わりを告げ、夏の始まりを知らせる、眩しい日光。

特に気にもしていなかったけれど、雑音として耳に流れ込んでくる。


「え?」

「開けるなっつてんだろ!」

「は?どうしたの悠?」


悠という名を聞いて、ああ、あの人か、と思った。

いつだってどこに行ったって常に嵐を巻き起こしている男。

今日は何をやらかしたのかなあ、なんて呑気にぼんやりと考えながら石鹸を握る。


「なにこれ?ラブレターとか?…にしてはでかいけど。」

「とにかく返せ。」


なにやらもめているようだ。

女の子の声と悠の声が行き来する。
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