HEROに花束を(完)




夜の10時05分。


ベッド脇の携帯が光った。


暗い部屋の携帯の明かりは嫌な思い出しかない。


カーテンの隙間から差し込む月光は、満月を知らす、強くて明るい光。


布団を剥がすわたしの手はなぜだか震えている。別に怖く思うことは何もないのに、冬の朝、学校に登校している時みたいに、ぶるぶるとロボットみたいに揺れている。


きっと違う。きっと違う。


なんどもそう言い聞かせているのに、わたしの体にはその苦し紛れの嘘はごまかせない。


「悠…。」


悠からの着信。


悠から来ていることに心なしかホッとしている自分がいるのを知っていた。


悠のお母さんからじゃなかったから。

それが意味することは、ただ一つしかない…


『今、来れる?』


悠からのいつもみたいに短い二文字の着信。


だけどそれを見て数秒もたたないうちにコートを羽織っている自分がいた。


まるで自分が分身してしまっているような気がした。


まだ正気な自分は、夜中に病院に行くなんて非常識だ、明日でもいいだろう、それに面会時間はとっくに過ぎている、怪しいにもほどがある…って、ちゃんと、ちゃんと理解しているはずなのに…


もう片方の自分はどこか死んでいた。悠に何があったんだろう、今行かないとまた消えてしまう…


本当に、消えてしまう…


そう思ったら心臓が痛くなって、体のあちこちに力が入らなくなって、鼻の奥がたまらなくツーンとした。





いつの間にか玄関を飛び出していた。




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