HEROに花束を(完)
改札口でカードがないことに気づき、焦る気持ちをどうにか落ち着かせながら切符を買う。
「まちがえたっ…っ。」
何度もなんども間違えて、無意識のまま持ってきていたポケットのお財布からお金がなくなる。
「うう…っ。」
だめだ。ここで止まったらダメっ。
悠…会いたい。
がむしゃらに涙を拭いて、『駆け込み乗車はおやめください』のアナウンスとともにギリギリ電車に滑り込む。
座る気にもならず、夜に一人泣いているわたしを不審物を見るようにじろじろと見てくる乗客を無視し、わたしは頑固にも手すりに捕まって突っ立つ。
ガタンゴトン、ガタンゴトン…
同じリズムを感じながら、自分はきっと今まで幸せだったのだと思った。
悠に腕を引っ張られながら改札口を抜けた時のこと。
間に合わなくて二人で笑い転げたこと。
初めて、笑いすぎて頬が痛くなったこと。
全部全部、きっとわたしの人生の中の黄金の、幸せな時間。
悠に出会えてよかった。
溢れてくる涙を拭いもせず、ただ、ただ、悠に会いたいと思い続けた。
駅に止まるたびに飛び出しそうになるのをぐっとこらえて、たまに泣き崩れたくなるのを抑えて、叫びたい気持ちを閉じ込めた。
一時間、二時間。
終電間際でやっと電車から飛び出て一人で改札を抜ける。
夜の街でたむろするヤンキーの間を通り抜け、ひっくり返って笑う不気味な酔ったサラリーマンを避け、馴染み深い大きな白い建物へ息を切らしながら駆けてゆく。