HEROに花束を(完)

「ほの…か…」

悠の声がいつもより震えてるってことにも、腕がだらんとぶら下がってることにも気づかなくて、

「悠っ…」

わたしはただ赤ちゃんみたいに悠に抱きついていた。

冷たい真夜中の風がわたしたちの横を通り過ぎるけれど、痛いくらいに密着したお互いの体の間をすり抜けることはない。

もう離したくない。絶対に離さない。

今まで何度そう思ってきたことか。だけど、毎回悠を見るたびにその思いは強くなるばかりで、悠に全てを委ねているような自分が怖くなる。

何も言わない悠に疑問も抱けないほどわたしは狂っていて、悠を独り占めしたいドロドロとした黒い感情がわたしを覆ってゆくのをただどこか遠いどこかで感じていた。

「悠…?」

しばらくしてわたしは固まったままの悠に違和感を感じて身を離した。

もちろん引いてしまっているかもしれないし、想いを寄せられている女友達に大胆な行動をされて困っているかもしれない。

だけど優しいから何も言わないのかも…


「悠っ?!?」


わたしの悲鳴じみた声が黒い空に吸い込まれていった。


「悠っ??どうしたの?!?」


虚ろな瞳でわたしを見返す悠はどこか死んでいて、頰に乾いた水滴の跡が見える。


わたしは悠の細かに震える腕を見つめ、悠を苦しめるものへのたいしての怒りと悲しみが津波みたいに押し寄せてくるのを感じた。


浅く息を吸って悠を見上げる。


白い月明かりで浮き上がる悠の大きな瞳には何も写っていない。
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