HEROに花束を(完)
悠の虚ろな瞳がゆっくりとわたしの瞳を始めて捉える。
かつて輝きしか灯さなかった悠の綺麗な瞳を、ここまで変えさせたのは誰…?
「神様は、どうして俺を選んだんだろう。」
すべての音が止まった。
遠くで聞こえる工事現場の金切り声も、
静かな風の囁きも、
靴がアスファルトに擦れる音も、
自分の心臓の音も。
どうして神様は…
それは、何度問いかけ、何度憎んだことか。
どうして神様はわたしから父親を奪ったのだろう。
どうして神様はわたしから親友を奪ったのだろう。
どうして神様はわたしから悠までを奪おうとするの…?
声が出ない。
掠れて、痛くて、何も出ない。
悠はもともとわたしに答えを求めている様子はなかった。
「悠が…っ。」
大きく息を吸い込むけど、酸素が足りなくて倒れそうになる。
「強いから。」
『強いから』
それしか言えない。
それしか出てこない。
卑怯な言葉だと思う。
強ければ死んでもいいの?
「悠がきっと…ヒーローだから。」
悠はみんなのヒーローだと思う。
幸せを配るヒーロー。
わたしのヒーロー。
だけど…そのヒーローは、不幸せにならないといけない。