HEROに花束を(完)
俺はきっと幸せ者だ。
穂花っていう人に出会えて、恋をして、大好きな家族に囲まれて、生涯を閉ることができる。
そして俺のために苦しみ、涙を流してくれる人がいる。
それを幸せと呼ばず、なんと呼ぶのだろう。
中一の秋、癌が見つかった時、俺はこの世の終わりかと思った。
闘病生活を始め、命を注いできたサッカーを諦め、いつしか俺は笑えなくなっていた。
手術に成功して復帰しても、俺はなかなか元の自分を取り戻すことができなかった。
そんな悲劇から二年。
俺は高校に入学して、一生を共に添い遂げたい、一人の少女に出会った。
俺にだって、夢はある。
穂花と結婚して、子供を産んで、会社に勤めて、お年寄りになるまで生き続ける。
だけどそれは俺には叶うことのない夢だ。
それについてどうこうするつもりもないし、何も俺にできることはない。
世界中には夢にたどり着かなかった人はたくさんいるし、それ以前に不幸な人生を送った人だってたくさんいる。
貧困、虐待、犯罪…数えればたくさんある。
きっと俺は幸せ者なんだ。
素晴らしい家族に恵まれ、楽しい学校生活を送ることができて、穂花に出会うこともできた。
神様は、俺に時間の代わりに、たくさんの幸せを与えてくれたんだと思う。
生きるって難しい。
いつしか暗闇に包まれるなんて想像もできない。
だって、こうして、俺は今、生きているんだから。
生きることの幸せ。
笑うことの幸せ。
穂花、俺に出会ってくれてありがとう。
きっとそう伝えれば、君は恥ずかしそうに笑うだろう。
君は、俺だけの、大切な笑顔のヒーローなんだ。
穂花、君じゃないと、ダメなんだ。
さようならなんて言わない。
だって、俺が一番伝えたいのは、
ーありがとう
それだけだから。