HEROに花束を(完)
何かを訴えるようにわたしの瞳を見つめてくる彼に、かける言葉はない。
ただ、足が動かなくて。
チカチカチカ。
視界の端でぼんやりと青信号が点滅しているのが見える。
「っ、穂花っ…。」
桜の花々と悠の泣きそうな顔が交差して、ふらふらする。
「とにかく、行こう。」
悠の力強い腕が腰に回って、強制的に引きずられるように歩かされる。
「ごめんな…」
悠はなぜかずっと謝っている。
歩道を渡ると、悠はそのままわたしをどこかに連れて歩いている。
どこに向かっているのかなんてわからない。
ただ、頭がぼうっとしていて、されるがままになっていた。
いつの間にかどこかの駅の前に来ていた。
「ちょっと待ってろ。」
悠はそう言うと足早にかけて行く。
まだ何がおこっているのかよくわからない。
悠がいる理由も…
自分が悠をちゃんと待っている理由も、
まだよくわからない。
いつの間にか悠がまた戻ってきていて、片手で自転車を押して近づいてきた。
悠はそのまま自転車に跨ると、背後を指して、ぽんぽん、と荷物置きを叩く。