HEROに花束を(完)

そんなこんなで、色々な意味で疲労感満載の体育の授業の後は、美術へ移動しないといけない。先生はゆるいせいか、遅れてきても見逃してくれることが多い。

「千秋ちゃん、わたし手洗ってくるから先行ってて!ごめんね!」

「ううん、全然大丈夫。じゃあ先行ってるねー。」

わたしは小さく手を振って一年生の廊下へと向かう。体育の授業で汗ばんだ手を洗ってからじゃないとなんだか気持ち悪い。

教室の前の水道で手を洗っていると、どこからかもめている声が聞こえてくる。なんだろう…

そう思って耳を傾けると、


「あ…。」

あれ…悠の声だ。


いつだってどこへ言っても何かを巻き起こすあの男。今日もなにかやらかしたのかな…まあ、わたしには関係ないか。




「…好き…。」




え…

これって……


どうして嫌な胸騒ぎがするんだろう。どうしてこんなにも胸が痛むんだろう。


どうしてか、聞きたくないって思った。


わたしはなぜだか急いで手を洗い美術へ向かおうとした…、

けど、はっきりと、


『ごめん』


の声が耳に届いて、どこか安心する自分がいた。


いつの間にか止めていた足に気づき、もう一度歩き出そうとすれば、ガラッと荒々しく扉が開いて、クラスの中でも中心的な女子生徒が走り出ていった。


振り向けば、少し間を空けて例の男が現れた。


「穂花。」


少し驚いたような表情をする悠。


「……悠。」


「今の…聞いてた?」


「ううん…今来たばかり。」


どうして…嘘、ついちゃったんだろう…。


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