千年前の君を想ふ
翌朝、兄上と共に父上の褥の横で容態を見ていると、あの女が入ってきた。
その少し前に兄上から
「輝夜という娘を受け入れた。記憶喪失らしい。」
という知らせを受けたので、そこで彼女の名を知った。
輝夜……
昨日の満月によく似合う、良い名だと思った。
父上と話している彼女を盗み見て、つい見とれてしまう。
「あの、ちょうど私、薬を持っておりまして…泊めて頂いたお礼に飲まれませんか?」
そう言って彼女が取り出したのは、見た事もないつるつるした箱だった。
「馬鹿なことを申すな!初めて会ったばかりの者を信用できるか!そのような怪しげな物、父上が口に入れられるはずがなかろう!」
…あぁ、まただ。
どうやら私は、好いた女にはきつく物を言ってしまうようである。
以前、別の女と和歌のやり取りをして、相手の屋敷へ行ったはいいが、この性格のせいで振られてしまった。
それ以来、私は女との関わりを避けるようになった。
関わりを避けることで、恋に落ちることもないだろうと思っていた。
そこに、輝夜が現れたのだ。
こんなに美しい者と出会えたことに対する喜びとともに、もう恋をしないと決めていたはずの自分に対する嫌悪感でいっぱいになった。