千年前の君を想ふ
夕餉を食べ終えた私は、歯磨きがわりに念入りにうがいをして、床に着こうとしていた。
すっ…すっ…すっ……
(……ん?)
誰かが近づいてくる音が聞こえる。
(こ、こんな時間に歩く人なんていないはずだけど!?怖い怖い怖い)
すっ…すっ…すっ……
足音はどうやら私の部屋の前で止まったらしい。
冷たい風が頬を撫でた気がする。
「輝夜、入っても良いか?」
声の主はどうやら敦政みたいだ。
「え、はい!どうぞ!」
(び、びっくりした~~!)
彼は御簾を上げて、無駄のない動きで近づいてくる。
「どうしたの?こんな時間に」
「は……?」
私の質問に敦政はピタッと動きを止めた。
「お主、もしや愚弄したのか?」
「え?」
その時ちょうど燈台(とうだい)の明かりがふっと消えた。
満月程ではなくとも、そこそこ明るい夜なので、すぐに目が慣れると…
「……んっ…」
キスされた
敦政の顔が視界いっぱいに広がる。
反射的に胸を押し返そうとすると、頭の後ろを右腕で固定され、左腕で抱き寄せられた。
「ちょっと、…んうっ……あつまさっ」
どんどん深く、性急に求められる口付けに頭がいっぱいになっていると、不意に唇が離れた。
(……今、私は何を考えた…?)
敦政のキスが嬉しい、気持ちいい。
離れたのが寂しい。
(やっと状況が掴めてきたけど……いや、意味は分からない…。)
「ふっ……とても気持ち良さそうな顔だな。そんなに私の口付けは良かったか?」
(はぁ?……なんかだんだん腹立ってきた…!)
「なんでいきなり、キ、キスなんて…!初めてだったのに…!!」
「??お主、私に返歌を送っただろう?」
ここでようやく整理が出来た。
平安時代は夜這いしてたって授業で習ったなぁ…とぼんやり考えていると、背中に布団が触れた。