千年前の君を想ふ
離れに入ると、母が生徒さん達と談笑しているのが聞こえてきた。
多分、私待ち。
着付け教室の部屋の前に正座し、礼儀正しく襖(ふすま)を開ける。
まずは声をかける。
「輝夜でございます。ただいま戻りました。」
両開きの襖の右側を開けようとしているので、左手を取手にかけて10センチくらい開ける。
同じく左手を襖の下の方にかけ、体の半分くらいまで開ける。
今度は両手で5センチくらい残して開けて、中の人へお辞儀をする。
座ったまま、よじよじと部屋の中に入り、開けた時と逆の手順で閉める。
「おかえり、輝夜」
母がにっこりと笑いかける。
ということは、きちんと作法が出来ていたということだ。
母は昔から礼儀作法にはうるさいので、私は自然と所作が出来るようになっていた。