鬼課長と鈍感女子の攻防戦(番外編追加)
「課長、お疲れさ…」
課長への労いの言葉は、最後まで言うことが出来なかった。
課長の長い指が私の瞼に溜まった涙をそっと撫でるように拭き取っていく。
とっくに目の痛みは限界を越えていて、そろそろ点眼したほうがいいかなと思っていたところだった。
至近距離にある課長の眼差しは、とても優しくて、心から心配してくれていることが伝わってくる。
こんな課長の顔、今まで一度も見たことがない。
目の前にいるのは、本当にあの鬼課長?
思わず首を傾げると、課長は一瞬フッと笑った。
今、課長、笑った!?
間違いなく笑ったよね!?
えーっ!?ものすごーくレアだっ!!
ようやくミッションクリア!!
「真宮」
「はい」
「目、大丈夫か?」
「はい。少し炎症をおこしてるそうで、目薬を処方されました」
つらつらと眼科で診察された内容を話していると、少し離れたところから、「コホン」と佐野さんがわざとらしい咳払いをした。
課長は私から離れると、自分のデスクに向かって颯爽と歩いていく。
課長の姿を眺めながら、ハッと我に返った。
「課長、A社の件、どうなりました?」
課長はドカッと椅子に座って、長い脚を組んだ。
「あぁ、先方のプロジェクトの進捗が早まったらしいけど、製品はまだ先でも構わないらしいから、納期は現状のままで大丈夫だ」