夢を売る少年
新吾は少し困ったような微笑みで言葉を続けた。


「恵がこれから出会う人の中で、好きになるやつが出てきたら俺に気兼なく好きになれよ。」

「出来ないよ…」


「ちゃんと作れよ。恵が幸せにならなきゃ俺が悲しい。俺のせいで恵は―ってへこむだろ?」


「…頑張ります。」


本当は頑張れるか分からないけど、新吾にこれ以上心配を掛けたくなかった。


「恵がおばあちゃんになってこっち来ても俺はすぐ恵だって分かるから。」

「絶対分かんないよ。」

「…多分大丈夫だから。」


新吾に笑顔が戻った。
つられて私も笑った。


「だから、寿命をちゃんとまっとうしてから来いよ。恵は生きろ。」

「…うん。」


急に新吾に抱き寄せられた。
私も背中に腕を回す。


「子どもに新吾ってつけてもいいから。」

「…うん。」

「誕生日、一緒に祝えなくてごめんな。」

「うん…。」


言いたいことが山程あるのに、ただ、うんと答えるだけで精一杯だった。
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