夢を売る少年
「何してるの?」

「あ…あなたは?」


誰もいないはずだった。誰も来ないはずだった。

だって、いつもここで新吾を待っていたのに誰一人として会ったことがない。

だから、思い出の場所でもあるこの教室で―


「…あなたはいつからここに…?」

「いたよ。ずっと前から。」

「嘘?だって誰もいないって確認して…」

「君が気付かなかっただけじゃないかな?」


確かに私は確認した。入るときにこの教室の中には誰もいないことを。


「あっ、あなたは…何してるの?」

「僕?僕は…夢を売りに。」

「夢…??」

「そぅ、夢…。」

「なっ、何言ってるの?意味が分からない。」

「今の君には必要だよ。」

「あなた、私をバカにしてるんでしょう!?恋人を亡くして、悲しみにくれて、今ここで自殺しようとしてた、だから通りすがりにからかってやろうって思ったんでしょ!」

「今の君には必要だよ。」

「ちょっと!聞いてるの!!」


私の怒りなど気にも止めずその少年は微笑みながら私に言った。



「二泊三日…良い夢を。」
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