絵描きと少女
出会い
激しい雨が体に残る深い傷をさらに抉るようにたたきつける。
強い痛みがはしったが、冷えきった体にはその感覚もすぐあいまいになる。
(今日はだめだったな)
外にほうり出されたのはあれが原因だ。
早朝からずっと、皿洗いや掃除・洗濯、外での仕事がつづいてた。ご飯は主人が朝残したパン一つで後は何も食べてない、そのせいだろう。
夜、主人の夕食が終わり後片付けをしている時皿を一枚落としてしまったのだ。
別に今日が初めてではない。こういうことは何度かあった。そのときは気が済むまでたたかれた後、部屋に帰ることができた。
が、今日はまずかった。
早くに帰ってきた主人が夕方から夜中までずっと酒を呷っていて、泥酔状態だったのだ。
わってしまった後、その場で殴られ蹴られ皿の破片で体をズタズタにされた。
「出来損ないが!お前なんかのたれ死んじまえ!」
暗く雨が降りしきる中あたしを放り出し主人はそう怒鳴って鍵をかけた。
(どれくらいたったかな?)
ずいぶんといる気がするが、そうでないかもしれない。
(・・・・どっちでもいいか。)
どうせもう中に入れてもらえないだろう。働ける場所もここ以外知らない。
時間がどれだけたっても今の状況が変わるわけじゃない、考えるだけ無駄だ。
ひどく寒い、空腹で吐き気がする。体が痛い。
(このまま・・・眠ったほうが楽だ。)
朝からずっと働いて体力も底をついているから丁度いい。
そう考えたらだんだんと意識が薄れていく。
(お父さん、お母さん)
もうちょっとでそっちにいけるよ、まってて。
全てが遠くなる。
瞼が除々におりていき、あとわずかしかあいてない視界の中に黒い靴の先がはいってきた。
(誰だろう?)
主人かと思ったがあきらかに足が小さい、といっても子供くらいの小ささでもない。
人買いだろうか?そう思ったとき
「お前、死ぬのか?」
高すぎず、低すぎない声で聞かれた。若い男の声だ。
顔を見ようにも指一本も動かす力がなくて見ることができず、相手の足先ばかりを見つめる。
「・・・・生きてるか?」
足先が動く。一歩一歩近づいてきて、首筋に冷たいものが触れた。濡れた感触に相手もこの雨にうたれているんだとわかる。
「生きてるな。・・・お前、捨てられたのか?」
首を少し縦にふる。
相手はそうか、と言う。
「行くあてはあるか?」
今度は左右に首を少しふる。
相手はまたそうか、と言った。
「なら、俺と来るか?」
優しさをふくんだその声にひかれるように顔をあげると、首筋にあった手が目の前に差し出されていた。
暗い雨がふり、月明かりもないのにはっきりとその手が見える。
骨ばった大きな手、ごつごつとしているが
(すごくきれいだ。)
「俺と来い。」
差し出された手に、自分の手をかさねる。がさがさで汚れていたのに力強く握り返してくれた。
胸の中に忘れていたものが広がっていく。
(あたたかい、安心する。)
大丈夫、そう思える。この手に導かれる先はどこだってきっと、あたたかくて優しい。
「行こう。」
手を引かれ立ち上がり足を動かす。
進んでいく。その先を明けるように、
雨はやみ月が道を照らしていた。
強い痛みがはしったが、冷えきった体にはその感覚もすぐあいまいになる。
(今日はだめだったな)
外にほうり出されたのはあれが原因だ。
早朝からずっと、皿洗いや掃除・洗濯、外での仕事がつづいてた。ご飯は主人が朝残したパン一つで後は何も食べてない、そのせいだろう。
夜、主人の夕食が終わり後片付けをしている時皿を一枚落としてしまったのだ。
別に今日が初めてではない。こういうことは何度かあった。そのときは気が済むまでたたかれた後、部屋に帰ることができた。
が、今日はまずかった。
早くに帰ってきた主人が夕方から夜中までずっと酒を呷っていて、泥酔状態だったのだ。
わってしまった後、その場で殴られ蹴られ皿の破片で体をズタズタにされた。
「出来損ないが!お前なんかのたれ死んじまえ!」
暗く雨が降りしきる中あたしを放り出し主人はそう怒鳴って鍵をかけた。
(どれくらいたったかな?)
ずいぶんといる気がするが、そうでないかもしれない。
(・・・・どっちでもいいか。)
どうせもう中に入れてもらえないだろう。働ける場所もここ以外知らない。
時間がどれだけたっても今の状況が変わるわけじゃない、考えるだけ無駄だ。
ひどく寒い、空腹で吐き気がする。体が痛い。
(このまま・・・眠ったほうが楽だ。)
朝からずっと働いて体力も底をついているから丁度いい。
そう考えたらだんだんと意識が薄れていく。
(お父さん、お母さん)
もうちょっとでそっちにいけるよ、まってて。
全てが遠くなる。
瞼が除々におりていき、あとわずかしかあいてない視界の中に黒い靴の先がはいってきた。
(誰だろう?)
主人かと思ったがあきらかに足が小さい、といっても子供くらいの小ささでもない。
人買いだろうか?そう思ったとき
「お前、死ぬのか?」
高すぎず、低すぎない声で聞かれた。若い男の声だ。
顔を見ようにも指一本も動かす力がなくて見ることができず、相手の足先ばかりを見つめる。
「・・・・生きてるか?」
足先が動く。一歩一歩近づいてきて、首筋に冷たいものが触れた。濡れた感触に相手もこの雨にうたれているんだとわかる。
「生きてるな。・・・お前、捨てられたのか?」
首を少し縦にふる。
相手はそうか、と言う。
「行くあてはあるか?」
今度は左右に首を少しふる。
相手はまたそうか、と言った。
「なら、俺と来るか?」
優しさをふくんだその声にひかれるように顔をあげると、首筋にあった手が目の前に差し出されていた。
暗い雨がふり、月明かりもないのにはっきりとその手が見える。
骨ばった大きな手、ごつごつとしているが
(すごくきれいだ。)
「俺と来い。」
差し出された手に、自分の手をかさねる。がさがさで汚れていたのに力強く握り返してくれた。
胸の中に忘れていたものが広がっていく。
(あたたかい、安心する。)
大丈夫、そう思える。この手に導かれる先はどこだってきっと、あたたかくて優しい。
「行こう。」
手を引かれ立ち上がり足を動かす。
進んでいく。その先を明けるように、
雨はやみ月が道を照らしていた。