【短編】夕暮れモーメント



勝三さんは答えない。


ごくり、と私が唾を飲み込む音だけが部屋に響きわたる。



「言いたいことはそれだけか」


「はい…そうです」











「…聴くか聞かないかは個人の自由だ」








少し間を置いてから、勝三さんは高島さんと同じことを言った。




「でも、」




「若い者には聴くか聴かないかを選ぶ権利なんていうものは当然のようにあるのにな、
こういう所に入った途端に強制になるというのは、おかしくないか?」




「は、はあ」



話が入り組んできているようで、頭に上手く落とし込んでいけない、私。




だけど、これは少しいけるかもしれない。

思ったよりもたくさん言葉を話してくれている。
私の話を聞いてもらえる、チャンスだ。







「それだけだ。帰れ」


「え?」


「だから、帰れ」


「質問には答えたぞ。か、え、れ!」



繰り返される帰れの3文字が、耳に重く響いた。





やっぱり何か私が間違っていたのだろうか。

職場に上手く馴染めない不満を、いらない正義感で解消しようとでも思ってしまっただけなのだろうか。



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